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2013/04/16 ~多発性骨髄腫~

多発性骨髄腫
多発性骨髄腫は 白血病と同じようにある種の血液細胞が悪性化した疾患です。免疫グロブリン(抗体)を産生する細胞は形質細胞ですが、形質細胞が悪性化すると主として骨髄で増殖し、白血病のように末梢血中で増加することはまれです。そこで、形質細胞の腫瘍化したものを骨髄腫、または形質細胞腫と呼びます。一般的には骨髄腫は診断時にすでに複数の病変を起こしていることが多く、多発性骨髄腫という病名がついています。
骨髄腫は、西欧諸国と比較し、日本では少なく、人口10万人あたりの年間発生率は約2人と程度とされています。65歳以上の高齢者に多く、男性が60%を占めます。多くの場合原因は不明ですが、放射能、重金属、薬剤などが原因として推定される場合もあります。

「症状」
骨髄腫の増殖は一般に緩慢で、発病から症状がでるまで数年以上かかるとされます。主要な症状としては、貧血、全身倦怠感、体重減少、腰痛などです。骨髄腫は骨髄で増殖するため、正常細胞の造血が抑制され、貧血が起きます。また、骨皮質が菲薄化する、あるいは骨粗鬆症になり、骨病変の痛み、骨折などの症状が起き、 腰痛、胸痛、背部痛などで発見されることが多いのです。骨病変の進行した症例では、高カルシウム血症が起き、腎障害による蛋白尿や浮腫、また意識障害が起きることもあります。また腎障害は、尿中に排出される免疫グロブリンやその成分により尿細管が破壊されることでも起きます。

「診断」
免疫グロブリンが単クローン性に増加しているいわゆる M蛋白が血中に増加します。M蛋白が増加するために、高度に血沈が亢進することがしばしば認められます。また、血清蛋白高値、チモール混濁試験(TTT)や硫酸亜鉛混濁試験(ZTT)など膠質反応の異常もしばしば認められます。一般的には、血清蛋白電気泳動でM蛋白の存在が発見され、多発性骨髄腫が疑われることが多いようです。M蛋白の種類としてはIgG型、IgA型がほとんどで IgDやIgEを分泌するものは稀です。骨髄腫の最も特徴的な検査所見は、骨髄における形質細胞の増加です。典型的には、骨髄穿刺などの染色標本で、細胞核の周囲の一部が薄く染まり核が車軸状に見える形質細胞が 全骨髄有核細胞の20%以上を占めます。骨髄で形質細胞の増殖が著しく、他の血球細胞系が抑制を受けるため、 貧血や血小板減少がしばしば認められます。骨X線検査、CTスキャンなどでしばしば骨病変を認めます。典型的には骨打ち抜き像(骨の一部が丸く抜けて見える)が有名ですが、骨が菲薄化する骨粗鬆症も起きます。
進行した症例では、M蛋白が大量に存在するため、高蛋白血症、低アルブミン、高カルシウム、クレアチニン、尿素窒素の増加を認めます。

「治療」
年齢が65歳以下ならば、造血幹細胞移植療法が勧められます。ドナーからの幹細胞を用いる同種骨髄移植もできますが、骨髄腫は末梢血に悪性細胞が出現していないことが多く、自らの末梢血の幹細胞を用いる自家末梢血幹細胞移植療法も可能です。骨髄腫は高齢者の疾患であり、骨髄移植が可能な症例は少ないことより化学療法が治療の中心となります。第一選択はアルキル化剤であるメルファランで、これに副腎皮質ホルモンであるプレドニン、さらにビンクリスチンを加えることもあります。これ以外にも種々の化学療法が開発されていますが、症状の改善、形質細胞の減少などの効果はあっても、完全治癒は望めない状態です。病巣が狭い範囲の場合や、腫瘤を形成している場合、放射線療法がよい適応となります。 最近 従来の治療とは異なる作用機序の薬剤が開発され、再発・難治例に対して優れた治療効果が報告されています。しかし、副作用にも注意が必要で、ベルケイドは末梢神経障害と血球減少、サレドカプセル、レプリミドカプセルでは、それに加えて深部静脈血栓症への注意が必要です。

「予後」
急性白血病と異なり、ゆっくりとして経過をたどります。通常の化学療法では症状の改善は望めますが、治癒は得られません。年齢が65歳程度までなら造血幹細胞移植療法が治癒が望める唯一の治療方法です。通常の化学療法での平均生存期間は3-4年ですが、最近の新規薬剤の導入により、明らかに生存率が延長してきています。


2011/08/11 ~抗リン脂質抗体症候群~

抗リン脂質抗体症候群(anti-phospholipid antibody syndrome, APS)
聞き慣れない病名ですが、最近 不妊症や原因の分からない血栓症の原因として注目されている病気です。
自己免疫性疾患の代表的な病気である全身性エリトマトーデス(SLE)では、しばしば梅毒血清反応が陽性になることがありますが、これは本当の梅毒感染でなくSLEによく認められる抗リン脂質抗体(カルジオリピン抗体)による偽陽性です。このような患者では動脈および静脈の血栓症、習慣性流産、血小板減少症が多く発生することが知られていましたが、その原因は長い間不明でした。最近その機序がかなり解明されてきました。そして、SLEの患者に限らず、全身の血栓症、習慣性流産などの症状があり、抗リン脂質抗体陽性である疾患を抗リン脂質抗体症候群(APS)と呼ぶようになりました。現在では抗リン脂質抗体の本態は、カルジオリピンに結合して構造変化したβ2-glycoproteinというタンパク質に対する抗体と考えられています。抗リン脂質抗体は凝固制御因子と結合することにより、凝固、血栓傾向を促進すると考えられています。APSはSLEをはじめとしたいろいろな膠原病に合併することが多いのですが、特にSLEでは30-40%に発生するとされています。その他 薬剤、感染症、リンパ性増殖疾患で発生しますが、基礎疾患の無い症例もあります。

症状
APSでは動脈血栓、静脈血栓が複数の部位に、また再発性に起きるのが特徴的です。他の疾患では動脈系、静脈系に同時に血栓症が起きることは希で、どちらか一方が起きるのが普通です。動脈の血栓症としては、脳梗塞の頻度が高いのですが、心筋梗塞、網膜動脈血栓などが起きます。静脈血栓症としては下肢の深部静脈の頻度が高く、またこのために肺梗塞を合併することが多く認められます(最近大震災の避難者などで注目されている深部静脈血栓症、いわゆるエコノミークラス症候群と同じ)。このような全身の血栓症により、片頭痛、てんかん、四肢の麻痺、皮膚の壊死、視力低下、失明など多様な症状が起きることがあります。習慣性流産は妊娠中期から後期の流、早産が多く、その要因として胎盤に梗塞が起きるためと考えられています。APS患者における習慣性流産の頻度は高く、現在では原因が不明の習慣性流産では APSを疑い検査することが必要とされています。

診断
APSでは臨床症状としては血栓症が起きますが、検査上では凝固のデータが延長、すなわち血栓ができにくいという矛盾した結果がでます。これは、抗リン脂質抗体が活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)やプロトロンビン時間(PT)などの凝固検査に必要なリン脂質を介する凝固反応を阻害するためと考えられています。一方、体内では リン脂質抗体が凝固を抑制するプロテインCなどの制御因子を阻害するため、却って血栓傾向になるのです。実際、APSがプロテインC欠損症に類似していることが報告されています。 APSのように凝固反応の阻害をするリン脂質抗体があっても、凝固第VIII因子欠乏症である血友病などのように特定の凝固因子が低下してもPTTやPTは延長します。これを区別するため、正常の血漿を患者の血漿を加えてから、PTTやPTを測定する補正試験を行います。血友病などの場合は、正常血漿により凝固検査が正常化しますが、APSの場合は阻害物質(ループスアンチコアグラントとも呼ばれます)があるため正常化しません。 血小板数が減少することもAPSの特徴ですが、血小板減少は5-10万/ulと軽度であることが普通です。

抗リン脂質抗体症候群の診断基準
A)臨床特徴
 1.静脈血栓症
 2.動脈血栓症
 3.習慣流産(子宮内胎児仮死)
 4.血小板減少症
B)血清学的特徴
 1.IgGカルジオリピン抗体(中等度以上)
 2.IgMカルジオリピン抗体(中等度以上)
 3.ループスアンチコアグラント 臨床特徴、血清学的特徴それぞれ1項目以上が陽性を示すものを抗リン脂質抗体症候群と診断する。

治療
動静脈血栓症の予防に、抗血小板剤としてバッファリン81mg 1錠 分1。または パナルジン(100mg) 2錠 分2などを投与します。
静脈血栓症の予防にワーファリン 初回 1日20mg 翌日以降 1-2mg 分1 を投与しますが、ワーファリン投与時にはプロトロンビン時間を測定し抗凝固作用のモニターをすることが必要。

メモ
プロテインC  凝固経路で重要な役割を果たす活性化第V因子、活性化第VIII因子を不活化する蛋白であり、プロテインSを補酵素とします。この経路が働くことは、凝固系が抑制される、つまり血液が固まりにくくなるのです。逆に、プロテインCやプロテインSの欠損症は若年時より 種々の静脈血栓症を起こしやすいことが知られています。


2010/10/26 ~血小板減少症~

血小板は血管の障害部位に血栓を形成し、出血を防ぐ役割を果たす細胞であり、血小板数の増加、または機能亢進は病的血栓、動脈硬化を起こすことが知られており、抗血小板剤の良い適応となります。また、血小板数の減少または機能異常は出血傾向を起こします。血小板減少症の原因は多数あり、血小板が産生されない場合、血小板が凝集、血栓などを作って消費されていく場合、また血小板の抗体などで血小板が破壊される場合などがあります。

a. 特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic thrombocytopenic purpura, ITP)
血小板に対して自己抗体が産生され、抗体が付着した血小板が脾臓により破壊されると血小板減少症となりますが、このうち原因が明らかでない場合を  ITPと呼びます。全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、悪性リンパ腫、薬剤起因性など、血小板減少の基礎疾患が存在する場合はそれらの疾患の一症状であり、ITPではありません。ITPは 急性と慢性に分類され、急性は小児に多く、発症に男女差はありません。発症の数週前に上気道感染症や発疹などのビールス感染症にかかることが多いとされ、通常数週間から数ヶ月で自然に回復します。慢性型は女性に多く、徐々に発症しますが、数年以上持続し自然寛解は稀です。

症状
血小板減少による出血傾向が主な症状です。数ミリから数センチの点状出血や斑状出血が上下肢や胸背部に出現しますが、広範な出血斑は起きません。時に口腔内出血、鼻出血、血尿、性器出血が起きます。 一般的には血小板数が5万/μl 以上あれば(正常の血小板数は 15-40万/μl)出血傾向はなく、軽度のITPは従ってほとんど症状がないことがよくあります。血小板数が2万/μl 以下の場合、消化器出血、脳内出血の危険性があるとされますが、実際 ITPによる血小板減少が致命的な出血を起こすことはほぼありません。

診断
ITPの診断は基本的には 血小板減少があること、骨髄において血小板を産生する巨核球数が正常またはやや増加していること、血小板減少症を起こす原因疾患がないことの3点からなります。血液の検査では、赤血球数や白血球数が正常で、血小板数のみが低下しています。末梢血では血小板減少が認められるにもかかわらず、骨髄では血小板を産生する巨核球が正常ないし増加しています。これは血小板減少症に対しての代償反応と思われ、ITPでは血小板の破壊が亢進し、骨髄は反応性に血小板産生が亢進していることを示します。 血小板に対する自己抗体が原因となる疾患であり、検査上 血小板結合免疫グロブリンが増加していることが多いとされますが、 ITPでなくとも血小板結合免疫グロブリンが認められる症例もあり、その判断には注意が必要です。

治療
ITPは 自己抗体が結合した血小板が脾臓で破壊されることで発症する疾患です。そこで1) 抗血小板抗体の産生を抑制すること、2) 脾臓における血小板取り込みを抑制することに 2点が治療の目標となります。 まず、最初に行われる基本的な治療法は、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン 1 mg/kg/日)です。約4週間行い、血小板数が増加した場合は副腎ステロイドを徐々に減量します。この治療により約80%の症例で血小板数が増加しますが、副腎皮質ステロイド減量中に再び血小板数が低下する例も多く、最終的に完全に回復する例は約20%と報告されています。副腎皮質ステロイドの副作用としては、易感染性、糖尿病、骨粗鬆症などがあり、治療中に十分な注意が必要です。

副腎皮質ステロイドの効果がない場合や、減量により再び血小板数が減少する場合は、脾臓を摘出することを考慮します。摘脾の有効率は高く、副腎皮質ステロイドが無効な症例でも約50%で 血小板数の増加を認めます。しかし、急性ITPのように自然寛解する例との鑑別が時に困難であること、また摘脾は易感染性等の副作用もあることより、初診から6ヶ月以上経過を観察してから摘脾の決断をします。現在では開腹手術でなく、腹腔鏡下での摘脾が行われるようになり、手術創が小さいこと、入院日数が短縮できるなどの利点があります。
  副腎皮質ステロイドも無効で摘脾の効果もない場合、また摘脾を希望しない症例では、免疫抑制剤の治療を行います。アザチオプリン(イムラン)、シクロフォスファミド(エンドキサン)などが一般的に使用される免疫抑制剤であり、副腎皮質ステロイドとの併用でより効果を示すとされています。免疫抑制を起こす薬剤であり、易感染性には十分に注意が必要です。

最近になり ITPの患者にヘリコバクターピロリ菌の保菌者が多いこと、除菌をすると半数以上の症例でITPが治癒することが明らかにされました。はっきりとして原因はまだ不明ですが、現在では ヘリコバクーピロリ菌の保因者であれば、ステロイドを使う前に 除菌をすることが勧められ、この治療は保険適応となっています。

 

2010/06/12 ~検査で分かる病気~

ジャパンメディカル医学顧問
山梨大学医学部臨床検査医学 尾崎由基男山梨大学HP

1.貧血
血液は赤色ですが、これは赤血球の中にあるヘモグロビンという蛋白のためです。ヘモグロビンは酸素を運搬する機能を持つ蛋白ですが、血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態を貧血といいます。貧血の原因はいろいろあるのですが、その中でも鉄欠乏性貧血が最も頻度の高い疾患です。

a.鉄欠乏性貧血
鉄の吸収が不十分な場合や、消化管や月経など出血により体内の鉄分が低下した場合、鉄欠乏性貧血が発症し、特に妊娠可能な女性の約30%は鉄欠乏性貧血を示すとされています。消化器症状のない、月経過多が存在する女性の場合は、ほとんどの場合貧血の原因は明らかであり、鉄剤の投与のみで済みます。しかし、男性や最近貧血になった閉経後の女性の場合、鉄欠乏に至った原因を究明することが重要です。胃潰瘍等の消化器潰瘍、痔、また直腸ガンからの病的出血が大事な鑑別診断となります。 

症状
症状としては、体内の各部分へ酸素を運搬するヘモグロビンの欠乏があるため、全身倦怠感、いらいら感、めまい、耳鳴り、動悸、息切れ、頻脈などが起きます。いわゆる不定愁訴と同じような症状ですので、検査をしないと見のがされてしまいます。 また長期間に徐々に進行してきた鉄欠乏貧血の場合、正常人の50%程度の貧血でも全く症状を訴えないこともよくあります。重症例では、痛みを伴う口角炎、舌炎、また食道粘膜の萎縮のため嚥下障害が起きる場合があります。また、稀ですが、爪が薄くなり、反り返るさじ状爪も報告されています。 
診断
ヘモグロビン合成には鉄分が必要ですが、赤血球という細胞を作ることは障害されません。そこで、ヘモグロビン合成は低下しますが、赤血球産生は保たれるために、赤血球1個あたりのヘモグロビン量が低下し、赤血球が小さくなります。 白血球数は正常ですが、しばしば血小板が増加します。 血清鉄、また組織の鉄分を示すフェリチンが低下し、反対に不飽和鉄結合能(UIBC)が増加します。UIBCの増加は、体内の鉄分の不足により少しでも鉄分を有効利用しようとして鉄と結合するトランスフェリンの合成が高まるためです。 
治療
鉄欠乏性貧血の治療は、その原因を明らかにして治療すること、及び、欠乏している鉄分を補うことが必要です。  経口鉄剤には 硫酸鉄、フマル鉄、クエン酸鉄などがあります。鉄剤服用後、数週間から1,2ヶ月で貧血は改善しますが、その後も2ヶ月程度 鉄剤の服用を続けるべきです。鉄剤を服用すると便が黒色になりますが、これは吸収されない鉄分の色で副作用ではありません。鉄分は元々食物に含まれているのもですが鉄剤中の鉄含有量が多いため、副作用を起こすこともあります。最も多い副作用は消化器症状で、食思不振、嘔気、下痢、便秘などが主な症状です。 胃腸障害等で経口剤の服用が困難な場合、また胃切除、吸収不良症候群などで鉄分の吸収が悪い場合、大量出血で急速に鉄分を補う必要がある場合などに、静脈投与することもあります。
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